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日本人が「働く」ということについて考える

「先進国病」の一つであるとも言われている先進国共通の社会問題をご存知だろうか。平均寿命の伸長化・高齢社会化・定年の延長化、さらには技術の発達に伴う労働工程の効率化に伴い、若年層の労働条件・就職環境が悪化するという問題である。これこそが現代日本を「生きづらい」と思わせている原因だと思われてならない。

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以下、例として挙げる数値は参照時期がばらばらなのだが、この「生きづらい」世の中を「働く」という観点からいくつかの数値といっしょに見直してみよう。
一体、どこに問題があって、どこを直せばいいのだろうか。そして、それこそが、今後のビジネスチャンスになっていくのではないだろうか。

□日本の労働人口

 国立社会保障・人口問題研究所の推計によれば、2010年には約1億2800万人だった日本の人口は、2030年には1億1600万人あまりに減少する。

また、年齢ごとの人口数を年齢順に表した人口ピラミッドは、上が大きく下が小さい「逆三角形型」への傾向が強まる。そして年齢区分別の人口を見ると、減るのは64歳までで、65歳以上の高齢者は人口減少にもかかわらずしばらく増え続けるというのである。

日本国内の人口推移予測が労働環境にどのように影響するか。人口推移は、中長期の未来を考える際、最も予測が立てやすく、予測幅の小さい事象の1つであるといわれているので、この傾向はしっかりと頭にいれておかなければならない。

大きな問題は、年々、老人を支える働き手世代の割合が減っていくことにある。労働力人口の減少を和らげるには、必ず女性や高齢者の活用などが必要になってくる。

このような労働力人口の減少に対する対策は、すでにさまざまなところで議論されている。最も盛んに議論されているのは、少子化対策、出産・育児で職場を離れる30~40代女性の活用、高齢者の活用、そして労働のグローバル化への対策である。

□女性起業と高齢者の活用

女性の労働力率は高まる傾向にある。たとえば、30~34歳の女性では、労働力率は平成7年(1995年)の53.7%から平成24年(2012年)は68.6%に上昇。仕事と家庭の両立支援施策によって、この率をさらに高めることもできるだろう。

男女別に起業家の年齢層を見ると、女性起業家は30歳代の人数が多く、他はどの年代でもほぼ横ばいとなる傾向がある。起業家の企業規模を従業者数で見ると、女性起業家は、9割が従業員を雇用せずに起業しており、女性の起業は、比較的小規模な起業が多い。

ここから先、女性活用で劇的に労働力人口を増やすには、このあたりの事実がカギになって行くのではないだろうか。

今後の施策として有力なのは、高齢者の活用である。そもそも、統計を取る際に高齢者そのものの定義を変えてしまえば、65歳ではなく70歳、あるいはそれ以上に引き上げることで、労働力人口を増やすことができる。ある意味反則ともいえるのかもしれないが、実際、すでに団塊の世代の多くが高齢者を70歳以上とイメージしており、彼らのうち50%を超える人々が65歳以降も働きたいと考えていることを踏まえると、十分に現実的な対策だ。
また、これによって労働力人口対策だけでなく、年金支給額を減らし、さらに仕事による生きがいづくりから医療・介護費を減らす効果まで見込めるという副作用まで期待できる。平均寿命が延び続けている現代社会では、高齢者の上限が上げる必要があるのではないか。

□労働のグローバル化

外国からの労働力受け入れについては、すぐに答えが出せるテーマではない。これは他の先進国がすでに行っている施策だが、賃金の低下、失業の問題、治安の問題などがある複合的な問題だ。

また、これとは逆にオフショアビジネスが話題に上げられる場合も多くなってきた。オフショアとは、ビジネスで使用される場合は、「海外で」という意味を持ち、特に新興国や発展途上国のことを指すのだが、コスト削減のために、自社の業務を、人件費の安価な海外企業や海外子会社に委託・移管することをオフショア、オフショアリングと言う。つまり、国内に労働力を置かない会社が増えているということだ。

優秀な学生はみな外資系を選び、日本企業は見向きもされない傾向も無視できない。いわゆる「頭脳流出」である。学生のトップ層はみな外資系を目指し、昔のように大蔵省(現在の財務省)をはじめとする中央官庁を志す人はごく少数なのが現状だという。

また、官庁や大手企業でグローバル人材を育成しようとMBA取得などのため海外留学させた幹部候補生も、結局は帰国後に、外資系企業へ転出してしまうという。日本企業は「世界のトップ人材を採用しても3年~5年以内で辞められてしまう」悩みが常につきまとっている。

□ニート、ワーキングプアの問題

ネガティブな側面も、労働力を考える上ではもう決して無視できないところまできている。代表的なのが、ニートやワーキングプア、自殺者などによる労働力の質と量の低下である。

「ニート」は「若年無業者」と表現されているが、その数はほぼ横ばいから漸減への動きはみられているというが、年齢区分をもう少し上にまで上げた「高齢ニート」まで含めても、この数年は減少する傾向にある。雇用市場も含めた景況感の改善や、若年層人数全体の減少、社会認識の変化などが要因として考えられる。

1995年ごろ該当世代の1.2%でしかなかった「ニート」だが、その後上下を繰り返しながら中期的には比率は漸次上昇。2005年には2.0%に達し、2012年には最大の2.3%。その後、やや値を落とし、直近の2015年では前年から変わらず2.1%との値が出ている。約20年で比率としてはほぼ倍増。そして概算だが15歳から34歳が48人集まると、そのうち1人がニートという計算だ。

働く貧困層ともいわれるワーキングプアの年収は、200万円以下と一般的に言われている。石川啄木が明治の末に詠んだ「はたらけどはたらけど猶わが生活楽にならざりぢっと手を見る」を地で行く労働者である。報われない自分の状況で経済的にも精神的にも決して良い状態ではないだろう。正社員でもギリギリの生活さえ維持が困難、拘束時間が長い派遣社員、生活保護の水準以下の収入しかもらえない社員、契約社員などがあてはまるようで、収入が200万円以下の人口は2014年には約1000万人を超えた。また、年収300万円以下で区切ってみても、勤労者全体の40%超の世帯がここに入る。

ワーキングプアが増えた原因は、労働市場の規制緩和・自由化、非正規雇用の全労働者に占める割合が増えたこと、企業の人件費の削減、就職氷河期の到来などの市場要因と経済要因が複合的絡み合った結果といわれている。

□自殺者の問題

自殺者数について、ここ10年、連続3万人超とマスコミでも報じられ問題になっているが、ここにはもっと深刻な問題があるという。日本には年間15万人ほどの変死者がいてWHOではその半分を自殺者としてカウントするので、本当に公表すべき自殺者数は11万人いるという事実。これは実に他の先進諸国の10倍にも及ぶ。これは遺書がない場合は自殺にカウントされず、変死として処理されているという衝撃的な事実によるものらしい。
2009年を見ると20代と30代の死因トップは自殺となっている。その割合が50%近くもあり、男性だけでみると、20代も30代も自殺の割合が50%を超えている。若者の死の半数が自殺によるもだったということなのだ。

□失業率の問題

失業率とは働くことができる、あるいは働きたいと思っている労働力人口の中に、働く意欲があるにも関わらず就職できない人が何%いるかという数値で、失業率というのは、働きたくても働く場所がない、働けないといった雇用の問題がどれだけひどくなっているのかそのものあらわした数値であることをまず確認しておく。

総務省の発表によれば2016年2月の完全失業率(季節調整値)は3.3%で、前月から0.1ポイント上昇した。良い条件の仕事を求めて自ら離職した人が増えたことが主因で、同省は「雇用情勢は引き続き改善傾向で推移している」と分析した。厚生労働省が同日発表した2月の有効求人倍率(同)は1.28倍で、24年1カ月ぶりの高水準を記録した前月から横ばいだった。

平成22年の中卒・高卒の労働者である15~19歳の失業率を見ると、平均値以上どころか、全体の失業率の倍以上を示している。若年層の失業率がこれほど高いのに全体の失業率がこんなにも低いのは、若年層以外の中高年の人の雇用ばかりが守られているから。
いかに若い労働者の環境ばかりが冷遇されているかを如実に示す数値だ。
経験がないことを理由に就労を拒否されることもあるのだろうが、それにしても、日本の若者の労働環境は非常に冷遇されている。上記の労働のグローバル化と合わせると、頭脳流出の問題と直結していることが見えてくるのではないだろうか。

□総括

これらの問題を解決するのは一筋縄ではいかないだろう。

しかし、その上で敢えて言うが、いや、そうであるからこそこんな状況では学校は従来型の教育に収まっていてはいけないのだろうか、もっと違う種類の情報と教育が必要なのではないだろうか、と考えてしまうのである。さらに言えば、すでに教育を受けた世代の、現状に即した頭の切り替え、現状の把握が求められていると言えるのではないか。

目の前の仕事だけではなく、本質的にビジネスに求められていることは何だろうか。
従来求められてきたことは、もうすでに現状とそぐわなくなってきていると感じられないだろうか。

「きちんと自分の納得できる仕事について、きちんとした評価が受けられ、一人一人がいきいき働ける」場所があったとしたら、これらの問題は、ほとんど解決してしまうのではないだろうか。

全ての日本人は「働く」ことそのものについて考えさせられる時期がきていると認識すべきだろう。

(ライターK)

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